厄介なXL系ビューエルのアイソレーター

フレームとクランクケースという最重要部品が無事揃うと共に、他の小物部品もボチボチ揃いつつあるわたしのBuell サイクロンM2。

今回は以前から気になっていたアイソレーターの組み立ての確認

エンジンの振動を打ち消す役割のあるアイソレーターはビューエルの特徴の一つですが、XL系ビューエルに関してはこのアイソレーター周りが”最大の弱点”とも言われることも。

XL系ビューエルのアイソレーターは画像の通り、エンジンのフロント側に1箇所、リア側に2箇所の計3箇所。

特にリア側のアイソレーターはその組み難さが悪名高いということを聞いていたもんですから、車体が身軽(というか、何もついていない)な今にうちに是非一度体験しておきたいところ。

一度体験しておけば、問題があったとしても今後何かしらの対策も思いつくかもしれないしね。

 

フロント側のアイソレーターは簡単な構造

問題のリア側の前に、まずは簡単なフロント側の方から。まぁ、簡単というのは構造的なもののことで、フロント側のアイソレーターもリア側とはまた違った問題を抱えています。

こちらがフロント側のアイソレーター。フレームのネック付近にボルト留めされています。このアイソレーターの中央には穴が空いておりまして、

その穴を使ってこのブラケット(エンジンハンガー)をぶら下げる構造をしています。

このエンジンハンガーはフロントバンクのシリンダーヘッドに固定されるので、先程の穴を通じてシリンダーヘッドをぶら下げるってことになります。あ、あんな細い穴で大丈夫なの?って気がしますが、ボルトは縦向きの方向には強いですからね。

なお、フロント側のアイソレーターの最大の問題は、このエンジンハンガー(及び取り付けボルト)が折れやすいということ。

もちろんBuell社も対策品に切り替えていったのですが、それでもまだ折れることがあったらしく、当時は社外のパーツメーカーであるS&SNRHSHAMMER PERFORMANCEから削り出しの強化パーツが発売されていたほど。今ではそれらもめっきり手に入りにくくなったので、中古でもなかなかのお値段で取引されているようです。

 

XL系ビューエルの進化形であるXB系ビューエルではこのエンジンハンガーは明らかに強化されました。そりゃあ、「へ」の字形状よりもトライアングル構造の方が強いのは誰でも知っているようなことですしね。

また、XL系ビューエルではアイソレーターとエンジンハンガーがそれぞれ独立していたのに対し、XB系ビューエルでは一体式のパーツに変更されています。メンテナンス費用という面ではアイソレーター単体だけを交換できるXL系ビューエルのような構造の方が有難かったんですが……。

 

XL系ビューエルもXB系ビューエルも、どちらもエンジンハンガーはシリンダーヘッドに組付けられるという点は同じなのに、なぜか取り付けボルトのピッチは微妙に違うんです。こういう細かいところなんかを共通の寸法にしてくれていたら、XL系ビューエルにXB系ビューエルの腰上移植とかもやりやすかったろうに。

 

すごい構造のリア側アイソレーター

フロント側のアイソレーターはエンジンハンガーが折れやすいという点を除けば、まぁそこまでおかしくはない構造でした。

しかし、リアはすごい。なんでこんな構造にしたの?って感じ。

まず進化形となるXB系ビューエルのリア側アイソレーターはこんな感じ。この円筒形のアイソレーターはクランクケースのミッションが収まる部分の上辺りにマウントされ、このアイソレーターを通じてクランクケースをフレームからぶら下げています。

一方でXL系ビューエルがどういう構造かというと、

こんな感じ。と言っても、これだけじゃよくわかりませんよね。

 

関係する周りのパーツと一緒に並べてみるとこんな感じ。

アイソレーターはスイングアームのピボットについているんですが、ビューエルのスイングアームはフレームではなクランクケースにマウントされているから、なんだかわけが分からないような構造になっちゃっているんです。

 

更に分かりやすく簡単な図にすると、こんなイメージ(先程の写真と上下逆さまになっています)

マウントブロックとスイングアームとをピボットシャフトでドッキングさせて、それをアイソレーターを介してフレームに嵌め込む構造をしています。マウントブロックというのはスイングアームをクランクケースにドッキングさせる為の部品で、XB系ビューエルではクランクケースと一体化していますね。

アイソレーター自体はボルトでピボットシャフトに固定されますが、フレームとの接合はアイソレーターのでっぱりによる引っかかりのみ。文字通り、フレームに挟まっているだけです。

エンジンと、レームの接続は、ゴムの出っ張りで引っかかっているだけ!!すげー!!

ちなみに、この構造はハーレーのFXRとだいたい同じような感じ。なんせFXRの"R"”ラバー(ゴム)”R”なんですから。そして、ハーレーのFXRの開発メンバーに名を連ねていたのがエリック・ビューエルであったというのは有名な話。だから似たような構造になっているんですね。

 

厄介なのがこのヘンテコなピボット周りの組み立て方法。

それには2つの方法があるようで、1つ目は左側のアイソレーターを組み付けた後、右側のマウントブロックとフレームの隙間を強引に広げて、右側アイソレーターを取り付ける方法。2002年モデルのM2のマニュアルにはこの方法が記載されていました。

作業にはREAR ISOLATOR REPLACEMENT TOOL (Part No.B-44623)という、そのまんまな名称の特殊工具が必要ですが、調べてみますと、どうやら普通のボルトを使ってステッププレートとスイングアームの間を強引にこじ開けている人が多い様子。

ちなみに、REAR ISOLATOR REPLACEMENT TOOLは同じマニュアル内でも別のページではIsolator Toolって記載されてたりします。適当なもんだなぁ。

 

フレームを強引に広げるのって、どうなの?っていう繊細な人にお勧めしたいのが2つ目の方法。1996-1997年モデルのS1のマニュアルにはこっちの方法が記載されています。

こちらの方法では2つのアイソレーターを先にフレームに取り付けて、それをマウントブロックに被せることで組み立てを行います。これならフレームにも優しそう!

しかしながらこの方法、今回のようにフレーム単体の状態なら特に問題無さそうだけど、実働車なら全てのエンジンマウトやオイルライン等の分離が必要になるのがあまりに大きなデメリット。フレームには優しいのですが、とにかく大掛かりで、手間が掛かりそうです。

S1の時はフレームを被せる方法だったのに、以降の車種であるM2ではフレームをこじ開ける方法が追加されたのはやっぱり手間に問題があったのでは?と、推察しちゃいますね。

 

試しにアイソレーターを組み付けてみよう

せっかくパーツも揃っていることですし、試しに悪名高いリア側のアイソレーターを組付けてみましょう。何事も経験ですもんね。

方法ですが、今回はフレーム単体でとても身軽なので、フレームに優しい2つ目の方法で組み立てていきたいと思います。

まずはピボットシャフトを用いて、マウントブロックとスイングアームをドッキング。本来はここの組み立てにもいろいろ調整が必要なのですが、今回はただの仮組みなので適当にサクサク組み立ていきます。

 

ピボットシャフトを組み立てると、このようにツライチのような状態になります。ピボットシャフトの中央にネジが切られているのがわかると思いますが、あのネジ穴を使ってアイソレーターを固定します。なお、そのネジ穴の更に奥にはピボットシャフト自体のボルト穴(六角穴)があります。ピボットシャフト自体はびっくりする位細いのです。

 

お次はフレームにアイソレーターを取り付け。アイソレーターには位置合わせ用のピン穴が開いておりますので、間違った向きでは取り付けることができません。

 

後は、マウントブロックをグイグイ押し込んでいきます。

ところが・・・

無茶苦茶キツイ!全然入らない!!

アイソレーターの裏に潤滑剤を塗っておくと作業が楽、と事前に調べて知ってはいたのですが、そういうもので解決できるようなクリアランスではないような気がします。

 

現状ではフレームを広げる専用工具があるわけもないので、なんとかしてこのまま入れるしかありません。

目標は、アイソレーターの中央の穴と、ピボットシャフトの中央の穴がぴったし重なるポイント。写真は、あと少し!!といった状態。でも、そこから先がなかなかすんなり入ってくれなくて、非常に苦労しました。

 

フレーム手でをグイグイ広げたり、プラハンで叩いたり、苦労しながらやっと左右のアイソレーターをピボットシャフトに組み付けることができました。

 

アイソレーターの組付けには専用工具が必須?

今回は仮組み立てなので、この作業は本組み立ての時にも必ずまたやらばければなりません。

でも、次は間違いなくフレームを広げる工具も用意することになるでしょう。そんなものは使用しない方が良い気がするけど、僅かでも広げてやらないことにはとてもじゃないけどアイソレーターの取り付けなんて出来なさそうですから。

 

スイングアームやアイソレーターを組み立てた状態。裏から見ると各部品の位置関係はこんな感じです。

この構造の恐ろしいところは、アイソレーターを取り外さないとドライブベルトの交換ができないこと。そう、消耗品であるドライブベルトやアイソレーターを交換する毎に、このとても面倒臭い作業を行わないといけないのです。

この点は進化形のX1ライトニングでは、ドライブベルト側のステッププレート(ピボット部)を脱着式にすることで改良されています。ステッププレートをごっそり外すことで、アイソレーターを分解することなくドライブベルトの交換ができるばかりか、アイソレーター交換時にフレームを強引に広げる必要がないという画期的な構造に……って、よくよく考えなくても思いつくような構造なんだから、最初っからその構造にしておいてくださいよ、ビューエルさん!FXRもそういう構造でしょ?

 

代用可能?なFXRのアイソレーター

ハーレーのFXRとXL系ビューエルの構造はほとんど同じっていうことに少し触れましたが、実は使用されているアイソレーターの形状もほとんど同じ(今後実際に寸法の確認もする予定です)。そしてハーレーFXR用のアイソレーターの社外品はとても価格が安いのです。

実際、流用している人もいると聞いていますが、一方で非常に硬く(ウレタン製)、振動を打ち消す効果は低いというのがもっぱらの噂。しかしながら、チューンドFXRの世界ではハイパワーな改造を施したエンジンのパワーをしっかり受け止められるよう、わざわざアイソレーターをリジットカラー(金属製)に置き換える改造を行うこともあるようですからね。

そのような車種の部品が必ずしもビューエルにぴったりであるとは限らないけど、XL系ビューエルのアイソレーターなんてほぼ手に入らないようになったので、こういった流用部品に頼らざるを得ない状況になってくるのでしょうね。

 

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